森林紀行travel

【増井 博明 森林紀行No.7 アラカルト編】 No.33_ドミニカ共和国

森林紀行

筆者紹介




絵画コンクール(ドミニカ共和国)

【環境教育】
 ドミニカ共和国で行っていたプロジェクトでは、山火事防止対策の一つとして、小中学校で山火事防止をテーマとした絵画コンクールを行い、環境教育も支援していた。援助していた4村のそれぞれの小中学校で毎年1回、3年間行った。この活動は未来を生きる子供たちへの教育活動として、大きな刺激を与えることができたのではないかと思う。子供たちを通して、親達にも、むろん全村に影響を与えることができたのではないかと思う。というのは親が読み書きできない山村の多くの家庭では、逆に読み書きができる子供から親達が字の読み書きを教わり、その内容も教えられることも多かったからだ。日本にいてはなかなか気づかないが、基礎的な読み書きの力を授けてくれる小学校の大きな役割というものを改めて感じたものである。2008年1月~2月にかけてラス・ラグーナス村の小学校で行った環境教育を紹介しよう。

【小学校での準備】
 ラス・ラグーナス村の小学校を訪問し、環境教育の一環として、子供達に森林の重要性についての授業を行ったのは、2008年1月16日のことである。小学校に電気は来ているが、計画停電で、太陽が出ている朝から夕方までは停電していることが多く、パワーポイントなどを使うため発電機などを持ち込み朝早くから準備した。

計画停電なのでパワーポイント用に発電機を持ち込み準備する

【小学校での授業】
 いつものことながら、最初に私が挨拶をした。日本から協力に来ていること、目的は森林を保護し、環境を改善し、その結果、皆さんの生活の向上を目指していること、その活動としては、はげ山にマツを植林したり果樹を植林したりし、土壌を保全し、近くのクエバス川の氾濫を防ぐことが基本だと言った。そして、この地域は昔から毎年、生産が終わった農地に焼き畑をしており、その火の後始末が悪いため、山火事が非常に多く発生し、貴重な木材資源が無くなっていることを説明した。そして皆さんの両親たちに植林をしてもらい、焼き畑をしなくても良いように、農地に灌漑施設を設置して農業生産力を上げる活動をしていることなどを紹介した。そして皆さんには森林を保護するために、山火事保護のための絵を描いてもらいたい。それは、絵画コンクールであり、山火事防止に役立つような上手な絵が描ければ表彰されることなどを説明した。

ラス・ラグーナス村の教室にて、これから始める環境教育の授業

【環境教育授業】
 その後、社会教育担当のヘススと植林担当のホルヘが授業を行った。ヘススは話が上手だ。ヘススは優秀だし、ドミニカ人特有の人懐っこさもあり、好感がもてる。多少おっちょこちょいで、ややルーズな面もあるが、ドミニカ人にしては、きちんとしている方だ。
 絵画コンクールのテーマは、山火事防止と植林推進である。これらの絵を描いてもらうにあたり、森林が果たしている役割の大きさを説明する。山火事で木がなくなれば、家を建てる木材がなくなってしまうよ、そうしたら皆困るよね。森林は山に根を張り土がスポンジのように柔らかくなっていて保水力が沢山あるのだが、森林が無くなれば、すぐに水が流出してしまって、洪水になってしまう。だから森林は洪水を防ぎ、皆の家を守ってくれているのだ。それに昔はこのあたりも森林を棲家とするピューマもいたが、今ではほとんどいなくなってしまった。鳥も少なくなってしまった。いろいろな動植物には繋がりがあって、繋がりが切れると、今まで手に入っていたものが入らなくなったりして、人間も生きていくのが難しくなるのだよ。そのために山に樹木は必要なんだと森林の保護と森林を増やす植林の重要性を訴える。そしてこれ以上森林を減らさないために、山火事は防止しなければいけないんだよと説明をする。これらをヘススは子供達に質問をしながら森林保護の大切さを教えて行く。
 「皆のお父さんはタバコを吸うかい?吸う人は手を上げて。」
 「もし、山の中でタバコの吸い殻をそのまますてたらどうなると思う?」
 「山火事になって山に木がなくなったらどうなると思う?」
 などと次々に質問をして子供達に答えさせる。子供達も質問されると、ほとんど全員と言っていいくらい、沢山の子供が手を上げて答えようと活発だ。私が小学校高学年になる頃は、子供も多かったし、日本では先生が一方的にしゃべっていたような気がする。今の日本の子供達もここの子供たちと同じように活発だろうか?

子供達に質問しながら授業を進めるヘスス

 次にホルヘが同じように森林の重要性を説明する。パワーポイントを使って、雰囲気的にはいかにも科学者といった顔で子供達に説明している。ホルヘはドミニカ人には珍しく生真面目で几帳面である。どちらかというと説明が難しく、子供たちが理解するのが難しいかもしれないと思った。 それはさておき、子供たちは非常に熱心に授業に集中していた。私も小学生の時のことをよく思い出せなかったが、このように自然に集中していたのだろうと思った。この小学生たちとの交流は私にとっても良い刺激となった。

パワーポイントを使って授業を進めるホルヘ

【絵画コンクールの入賞作品を選ぶ】
 さて、子供たちに約2週間余りの間に絵を描いてもらい、2月4日に、ラス・ラグーナス村とカーニャ・デ・カスティージャ村の小中学生の絵の審査を行った。ラス・ラグーナス村の小中学校は3年生から8年生まで、カーニャ・デ・カスティージャの小学校は3年生と4年生が対象であった。学年毎に1等から3等までを選んだ。年齢は7才から16才であった。全部で150枚以上の作品があった。これらを、講義を行った二人と私と事務所の他の社会教育担当2名を含め全員で、5人でどれが優秀作かを選定した。

作品を一覧できるように並べる

 事務所で、学校から回収してきた絵画を学年毎に一覧できるように並べた。日本の小学生に比べて、図工の授業がないので、その分ドミニカの方が不利だろうが、やはり日本の小学生の方が平均的にかなり上手のように思えた。だいたい優秀作は9割くらい全員の意見が一致した。しかし、1等から3等まで決めるとなると意見が割れる場合があるので、その時は投票で決めた。

【絵画コンクールの発表】
 ラス・ラグーナス村の小中学校で、2月14日に、絵画コンクールでの入選作を学校の掲示板に張り、発表した。各学年1等賞から3等賞までを壁に貼りつけた。この時は大勢の子供達が集まり、人だかりで、大歓声だった。自分は入賞したかどうか、皆ワクワクしながらそしてガッカリもしながら発表を見ていた。

ラス・ラグーナス小中学校で入選作を貼りだす。ワクワクの子供達
一等賞
二等賞
三等賞
子供たちと共に

【ラス・ラグーナス村の絵画コンクール表彰式】
 日曜日であったが、2月17日にラス・ラグーナス村の小中学校で絵画コンクールの表彰式を行った。小学校の教室に絵画コンクールの参加者に集まってもらい、絵画だけでなく、学芸会のようにいろいろな出し物を行い、子供達と一緒に楽しんだ。

集まった参加者の小学生
同上

 我々や先生の挨拶の後、最初に数人の小学生に身振り手振りを入れて小話をしてもらった。これが堂々とした態度で、面白く様になっているので、ドミニカの田舎の子供達もやるなあと思わされた。私が子供の時は、引っ込み思案で、大勢の人前で話すと顔が真っ赤になりなかなか上手に話せなかったが、今は日本の小学生も人前で堂々としゃべれるのだろうか。しかし、一緒に仕事をしていた技術者達にもいろいろな会議でそれぞれプレゼンテーションをやらせたが、中には上がる技術者もいて、ドミニカ人でもやはり個人差はかなりあるものだと思った時もある。

小話をする男子小学生
同じく小話をする女子小学生

 次にパドレ・ラス・カサス町の若者のグループの二人にピエロに扮してもらい、漫才のようなコントをしてもらった。これがまた、面白く子供達は笑いの渦に巻き込まれた。おそらくドミニカ人は天性として人を楽しませるすべを身に着けているのかも知れないと思わされた。

ピエロに扮した若者の劇

 続いて表彰式に移り、各学年1等から3等に入った子供達に先生から賞状を手渡してもらった。それから全員に参加賞が手渡された。それが終わってからもう一度1等から3等までの入賞者に賞品としてナップザックを手渡してもらった。

入賞者に賞状
全員に参加賞を渡す
入賞者に賞品

 こうして一通りセレモニーが終わった後に、飲み物と軽食を食べてもらい、歓談し、絵画コンクールの表彰式を終えた。学年は同年齢の子供達ばかりではなく随分歳が離れた子供も同じクラスにいるのだった。多様性がありよいのではないかと思わされた。

軽食を配る

【おわりに】
 私が見たところでは、残念ながらドミニカの子供の絵は、日本の子供達に比べてあまり上手でないと思った。上述したように、それは学校の授業の中に図工がないからだと思わされた。同様に、音楽と体育の授業がないのである。学校は子供達に勉強を教えるだけで、子供達に情操教育が欠けているのは問題と思った。一番楽しかったと私が思っていた授業がないのである。
 ドミニカ人はバチャータやメレンゲといった音楽は大好きで、ダンスも非常にうまい。子供もダンスをさせると大人顔負けにうまい子供も沢山いる。事務所で一緒に仕事をしていた秘書もしょっちゅう鼻歌のように歌を歌っており、よくこんなに沢山の歌詞を覚えているなあと感心していたが、ときどき音程がずれるので、あれっとよく思ったものである。これも音楽の基礎を習っていないからではないだろうか。
 また、ドミニカ人は体力もあり、野球も強いが体育の授業がないので、運動しないものは子供でも体力があっても体が硬かったり、バランスが悪かったりするように見え、やはり日本の体育の時間は非常に重要なものに思われ、図工もしかりと思ったものである。
 また、技術者についても記述したが、彼らと仕事をしていて、ドミニカだけでなく、どの国でも個人の能力には差がないなあと、中には私よりもよっぽど能力が髙い者もいるなあと思ったものである。しかし、日本が援助する側で、発展途上国よりも優位な立場になっている差は何なんだろうかと考えた時に、国の歴史や持っている資源の量も関係するが、それよりも社会システムの違いや人々のコンプライアンス意識の差が大きいと感じた。個人の能力もさることながら、個々人を集合させた組織が効率的、不正をすることなく動くことが経済力の差になって表れているのではないだろうかと感じていた。
 それはそれとして、このような子供に対する環境教育の成果は大きく、この子供達が大人になるまで、いやもっと長く、一世代20年~30年くらい協力できれば、もっと大きな協力の成果が得られるだろうと思ったものである。


つづく

Page Top