森林紀行travel

【森林紀行No.7 アラカルト編】 No.20_コロンビア

森林紀行

コロンビア-アンデスの山守の美少女-

コロンビアの森林は崩壊地だらけと前回のコロンビア編で書いたが、その他コロンビアと聞けば皆さんは何を思い起こすだろうか?コーヒーか、サッカーか、美女か?あるいは治安の悪さや麻薬などだろうか?
コロンビアを走るアンデス山脈は3つの支脈に分れており、その中の中央山脈に位置するマニサレスという町を基地として私は調査を行っていた。マニサレスからさらに奥地に入った村、村名はペンシルバニアと言い、アメリカの州の名前と同じだが、ペンシルバニアの人工林の山守をしていたのがアデリータだった。アデリータと言えばスペインの作曲家でギタリストが作曲したアデリータが有名である。アデリータの正式名はアデーラだが「ちゃん」づけすると「アデーラちゃん」がスペイン語だとアデリータになるのである。
マニサレスからペンシルバニアまで、道路に沿って100㎞くらいの距離ではあるが、くねくねとまたアップダウンを繰り返すので、時速は20kmも出せず、6時間くらい車に揺られてペンシルバニアに着くとくたくたで、本当に山奥に来たという思いになる。しかし、ここペンシルバニアの若い女性は美人しかいないと思われるほどの美人だらけである。それで疲れも吹っ飛ぶのである。日本でも山奥の平家の落人の集落がそうであったりするのと似ている。

ペンシルバニアへ向かう途中の集落にて

1990年の2月にペンシルバニアに着いた我々のチームは顔なじみの村長や営林署長などに挨拶や調査の説明などをした後、村の中心にある広場に面したカフェテリアに入った。広場のもう一方には大きな教会があった。まさにコロンビアコーヒーを飲みながら調査の打合せなどをしていると山の上の方からカウボーイハットをかぶった少年らしき二人が馬に乗りゆっくりと降りて来た。そこで顔を始めて合わせた一人がアデリータであった。17才くらいの少年と思ったが、二十歳の女性だった。アデリータも村の女性に勝るとも劣らない美人の上、知的で澄んだ目をしていて思わず引き込まれそうな感じを受けたが、そこでは挨拶をしただけだった。

山中の裸足の少女と

翌日、山に入るのに営林署長に案内人を頼んでいたが、その案内人としてきたのがアデリータだったのでびっくりした。「あなたは昨日会った方ではないですか。この山の管理をしているのですか?」「そうです。私はこの山のグアルダーボスケ(山守)です。」と答えるではないか。「メデジンに住んでいましたが、この村の森で勉強も兼ねて森の管理人として働いているのです。」とのことだった。
我々はこの村のマツとサイプレス(ヒノキの仲間)の人工林を中心に調べていたが、アデリータが「マツの人工林でナナフシが大量発生していて困っている。」というので、現場に行って調査すると、まさに様々の種類のナナフシが大量に発生していて、マツの葉を食べている。枯れ枝と全く同じ形をしたナナフシもいて、ナナフシを見ると進化の不思議を感じざるを得ない。たまたま色や形が変わり、鳥に食べられることなく生き残ったナナフシが進化に進化を重ねて枯れ枝のように進化したというような説明だけで皆さんは納得できるだろうか?コノハチョウや目玉の文様があるチョウなどを見ても何か目的を持って進化してきたのではないかとつい思ってしまう。獲得形質は遺伝しないことになっているが、本当だろうかとも思ってしまう。
それはさておき、アデリータはいろいろ対策をたてていた。殺虫剤を木の根元に塗ってみたが、能率が上がらず、腰が痛いなどという。そこで私は「ナナフシが食べるのは葉だから、塗る位置が根元でも胸高でも効果は変わらないだろうから、作業効率や健康面から立って塗れる位置に塗ったら良い。」また、林内が暗いので、「間伐して光を入れてみたらどうだろうか。」といったことをアドバイスした。
それからしばらくして、「実験的に間伐をしてみたらその林からナナフシがいなくなった。」とアデリータは言う。「良かった。良かった。人工林は除伐や間伐を定期的に行い、光を入れて健全に育てなければだめだよね。」と私。そうしてペンシルバニアの森林を調査する時は、アデリータに手伝ってもらった。アデリータが森の隅々まで知っているので、調査はおおいにはかどり助かった。まさに山の守だった。しかし、それから1年ほど経ってアデリータは自分の郷のメデジンに戻って行った。

林内が真っ暗なサイプレスの人工林

我々はその後も調査を継続してこの周辺の森林の管理計画を作成してこの仕事は終えた。その後アデリータとは何の連絡もなく忘れ去っていたが、一昨年フェイスブックで友達リクエストがあり、驚いた。本当にアデリータなのだろうか。すぐにOKして近況が分った。あれから30年、母親となり50才となったアデリータと連絡できるとは。SNSの力は不思議なものだ。今はアンティオキア州の環境省に勤め、環境保護の先頭に立って活躍している。 アデリータだけでなく、その後もモロッコやドミニカ共和国で一緒に働いていた男性の技術者などからもリクエストが続々とあり、改めでSNSの力に驚いている。

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