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【増井 博明 森林紀行No.7 アラカルト編】 No.31_セネガル

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筆者紹介




セネガルでの経験-アフリカ人の運動能力の高さ

【はじめに】
 アフリカ人のスポーツ選手の運動能力の高さは、誰しも認めるところであろうが、アフリカ人のスポーツ選手に言わせると「勝てるのは先天的な運動能力の高さのおかげではなく、努力のたまものだからだ。」とのことである。実際努力に負うことは確かであるが、私が見たところ走ることなどは日本人に比較して、アフリカ人の方が有利な体型であることは明らかであると思えるので、そのことについて、今回は前に書いた文章も引用して、セネガルで感じたことを書いてみたい。

【セネガルでの仕事】
 まずはセネガルでの仕事であるが、セネガル南西部にあるサルーム・デルタでのマングローブ林の保護をしながら環境を保全し、そこに住む住民がマングローブ林を利用しながら生活の向上を目指す仕事だった。マングローブ林の樹木は、建築材や薪炭材ともなり、住民の生活には欠かせない重要な資源だった。同時に水産資源も育み、防潮堤の役目も果たし、さらにエコーツーリズムなど観光資源にもなる貴重なものである。
 
 そこでマングローブの植林も行った。天然林と人工林で日隠を増やし、海水温を下げ、またマングローブの葉が海水に分解され、養分となり、プランクトンが増え、魚介類が増えるのだった。採った魚介類を販売したり、エコルートを作ったり、マングローブ林を保全しながら収入源を多様化する様々な活動を行った。


 これは村人との共同作業で行ったものだが、活動を通じ政府の職員も含めて多くのセネガル人に接した。それにより驚いたのが彼らの素晴らしい体型と運動能力だった。

干潮になるとマングローブの一種、リゾフォーラの足がでてくる

【体型】
 セネガル人は、平均的に背が高く、日本人より男女共10cmくらいは背が高いのではないかと感じた。私と一緒に仕事をしていた森林局の人と比較したのだが、彼は185cmで、私が170cmなので15cm身長が違うが、座ると座高は同じだった。つまり、足が私よりも15cmも長いのだ。それもスネが10cm、モモが5cmも長いのだ。

 本当に驚くほどスネが長い。底なし沼のようなマングローブ林に入るには、下の写真で私が履いているような日本の地下足袋が最高に適していた。だから一緒に仕事をしているセネガル人も日本から持ってきた地下足袋をプレゼントした。しかし、彼らのスネは長すぎて、日本人のスネは彼らのアキレス腱くらいで,地下足袋をフック(コハゼ)で止める場合,フックの位置を一番狭いところにしてもまだ,ゆるゆるの場合が多かった。とはいえ彼らもマングローブ林を歩くときの地下足袋の素晴らしさを満喫していた。このように足、特にスネが長い場合にはサッカーには向いているだろう。

 それに頭が小さいのだ。私は54cmくらいの帽子をかぶっていたが、彼のそれは50cmくらいで、彼が私の帽子をかぶるとブカブカだった。また、腕が私よりはるかに長かった。これは走る上で大きな素質と思った。運動の専門家に聞いてみると確かにそのとおりで、ヤジロベイのように重心が支点の下にあり、バランスが非常に良くなるとのことだった。

 腕が長いといえば、村でのワークショップ時に、壁に模造紙を貼り付ける時、私が背伸びして手が届かない所を一緒に仕事をしていた女性が手を伸ばし張り付けてくれたことがある。その女性は、身長が165cmくらいで私より5cm低いのに手を伸ばしたら私より10cmくらい上に手が行くので、びっくりした。スタイルが非常に良いのだ。その女性は細くて柔軟性が非常に高いように見え、オリンピックの200mで優勝したアリソン・フェリックスのような感じだった。

スタイルの良い女性。私から右に3番目にいる女性。
男の体型も良い。
右手を挙げている男性の左にいるのが私で
何と足が短いことでしょう。
右から2番目の白い服を着ている人と足の長さを比較した。

 それから、秘書の女性が、仕事は大変に良くできる上に、素晴らしい体形で、オリンピックの短距離選手のような体つきだった。100mをコーチについて練習すれはオリンピックでも出場できそうな体型に思えた。この方は筋肉質に見え、やはりオリンピックで優勝したジャマイカのキャンベル・ブラウンのような体つきだった。私は彼女によく「あなたは素晴らしい運動能力を持った体型に見える。100mでも練習すればオリンピックにでも出場できるのでは?」と言っていた。彼女も「私も皆からそう言われる。」と言っていたから、セネガル人の中でも特に素質があるような体型だったのだろう。

運動能力の高そうな秘書の女性

 男の筋肉質の体も素晴らしい。小型のエンジン付きのボートをいつも使っていたが、その船頭がウエイトトレーニングでもしているように実に素晴らしい体をしていた。エンジンが50kg以上もあり、非常に重いのに軽々と扱っていた。彼らは、米に魚を乗せたチェブジェンという食事が中心で、動物性たんぱく質はあまりとってないはずなのに何でこんなに筋肉質になるのか不思議だった。エンジンの取り付け、取り外し、その保管などが生活に取り入れた良いウエイトトレーニングになっているのだろう。腕の力こぶが自然とでていて筋肉のみというような素晴らしい体型だった。

【子供の運動能力】
 サルーム・デルタは文字通りデルタ地帯で多数の島から成っている。村での活動では島の民家に泊めてもらうことが多かった。マールファファコという村に泊めてもらったある朝、小さな女の子が井戸から水を汲んでいた。

マールファファコ村のリゾフォーラの植林

 女の子の身長は130cmくらいだった。小学校4~5年生くらいにみえたが、井戸からつるべ落としで水を汲んでいた。井戸の深さは10mくらいだったが、そのロープを持って全身を使った動きがしなやかで早く、全く無駄な力を使っていないようにも見え、素晴らしい運動能力を持っていた。私も汲んでみたが、一杯10kg程度はあり、単に力だけでなくタイミングが必要で、汲む速さは全くかなわなかった。日本の同年代の女子ではこの重さでは上がらないだろうと思われた。

 この天性の運動能力をどこかの先進国で開花させれば、オリンピックの何かの種目で金メダルを獲得するのはそれほど難しくはないのではなかろうかと思わされた。この子だけではなく、アフリカ人の多くはそのような素質を持っているのだろうが、開花させられることはなく一生を自分の村で過ごすのだろうなと思った。

マールファファコ村での井戸の中

【コロナ禍のオリンピック】
 今、世界中はコロナ禍の中にあり、そのため東京オリンピックも1年延期された。来年(2021)開かれるかどうかもまだ不透明である。もし予定通り開催されていたら、今頃はすべての結果がわかっていて、日本は、金メダルが何個とか余韻に浸っているころだっただろう。

 来年、ワクチンが行きわたり、コロナも終息していて、オリンピックが開かれることを望むが、オリンピックでは本当に最高の力を持った選手が優勝するのであろうか?世界選手権で2回銅メダルを取り、走る哲学者とも評される為末大は「銅メダルを取ったから、自分は世界で3番目に速い、ということではなくて、たまたまそういうことが評価されるような国の選手が集まった中で、3番だったということに過ぎない。世界にはすごい走者が潜在的に沢山いる。」と言っているが、その通りだと思う。一番力がある選手でも参加していない可能性がある。

 もしアフリカ人が先進国と同じ様に一般の人が豊かになり陸上の競技人口も増え、栄養も良くなれば、より潜在力がある選手が発掘されて、今よりはるかに良い記録がでるだろう。益々日本人は離されてしまう。今でさえ、マラソンでもケニアの黒人選手エウリド・キプチョゲが非公認ながら2時間を切った。これは靴やペースメーカーなど特殊な補助を受けているため非公認となっているが、相当な潜在力だろう。

 一方、これに対抗するかどうかは別として、記録を出すためにドーピングなどの不正をしているものが多いのも大問題である。今のドーピングは、単に薬を飲むということだけではなくて、ゲノム編集までやってしまい、遺伝子検査をしなくてはならないということも聞く。本来の力以上のものを出し、死に至った選手もいるし後遺症に悩まされている選手もいる。また、大企業がスポンサーになって選手を広告塔として利用するなど、他にも問題はいろいろある。

 薬物や特殊な補助に頼ることなく、人間の力だけで、そして潜在力がある人も練習し能力を開花させ参加できるオリンピックになれば良いと思う。しかし、潜在力がある人が参加するようになるまでにはまだまだ長年月が必要であろう。

 そのようなことを考えると人間の能力をオリンピックで開花させる必要もないかなどとも思ってしまう。競争とは無縁な素朴な生活を続けていくのが一番幸せであるかもしれないとも思う。

  それでもやっぱり、潜在能力を持った人達が、本当にその潜在能力を開花させたら今よりはるかに高いレベルの記録がでるのかどうかを見てみたい気もするというのも本音である。そんなことを思いながら、来年は、本当に落ち着いた年になり、本当に能力を持った人たちによる、より素朴ではあるが、ドーピングなども不正もない豊かな祭典、東京オリンピックが開催されることを望むものである。

つづく

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