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[増井 博明 森林紀行 番外編 地域探訪の小さな旅]No.15 御岳山の御岳神社へ初詣 ― 冬の山に抱かれた静かな旅

森林紀行

 新しい年になり、松の内も明けぬ2026(令和8)年1月7日に御岳山の御岳神社へ初詣に向かった。この日は陽も照らず、今冬一の寒さであった。朝の空気は張りつめ、吐く息は白く、指先がじんと痛むほどの冷え込みだった。「今冬一番の寒さ」という言葉は、誇張ではなかった。
 同行の二人は、かつての勤め先の仲間たちだ。皆70代になったが、この二人は相変わらず元気で、体力の衰えを感じているのは一番年上の私だけらしい。とはいえ、こうしていつものように山に集まれることが、何よりの楽しみになっている。拝島駅9時1分通過の電車に乗っていると、彼らがここから乗ってきた。「今年もよろしく」。短い挨拶の中に、長年月を共に働いてきた者同士の安心感がにじむ。

御岳山周辺地図

御嶽駅から滝本駅へ
 青梅駅で電車は乗り換えになっており、そこで乗り換えて御嶽駅まで行った。御嶽駅に着くと、山の冷気が一段と強くなる。「御岳山」に行くのに駅名は「御嶽駅」。長野県の御嶽山と紛らわしいが、こちらは東京の奥多摩の山だ。
 駅を少し戻ったところにバスが静かに待っていた。御嶽駅からケーブルカーの出る滝本駅まで向かう。出発時にはほぼ満員となった。私は最初ドアの開いている側の席に座ったが、風が冷たく奥の方の席に移った。後から乗ってきた人も最初はその席に座るのだが、寒いので皆すぐに席を変わっていた。

バスを降りて滝本駅まで
 バスの終点からケーブルカーが出発する滝本駅まではすぐ近くであり、以前ならさっさっさと駆けても登れたのに、今となっては、ぜいぜいと息を切らしながらゆっくりと進まねばならないのであった。「年を取るとはこういうことか」と思いながらも、ゆっくり歩けば問題はない。ただ、かつての“スタスタ感”が懐かしく、かなりもどかしい。

ケーブルカー乗り場の下から見上げる

滝本駅から御岳山駅へ
 このケーブルカーは今まで何度も使っている。日出山の方から下山する時に主に使っていた。

ケーブルカーに乗り込む

 ケーブルカーのホームに立つと、線路がまっすぐ山の斜面に吸い込まれていく。それにしても急な勾配だった。車内放送では「御岳山のケーブルカーは平均勾配22度で、関東一の急勾配。全長約1.1kmを6分で上がる」と言っていた。実際に最大勾配は25度で、標高差は423mだそうだ。そのとおり6分で御岳山駅に着いた。

ケーブルカーに乗ったところ
乗ってしばらく行った場所
中間点 上りと下りが交差する場所
まもなく降り口(御岳山駅)に着く

駅横の広場にて冬の関東平野を眺める
 駅を出て右手の広場へ向かうと、曇り空の下に関東平野が広がっていた。冬の空気は澄んでいて、普通は遠くの景色がよく見えるが、この日は残念ながら曇っていたのでイマイチであった。
 持参した小型の双眼鏡でスカイツリーを探すと、細い塔がうっすらと浮かび上がった。仲間の大口径の双眼鏡を借りると、視界が一気に明るくなり、スカイツリーの形がくっきりと見えた。
 広場に設置されたコイン式望遠鏡は、冬季の結露対策なのかガムテープで封じられていた。冬の山では、こうした工夫が必要なのだろう。

御岳山駅の横の広場から東京方面を望む
御岳山駅の横の広場から
御岳山駅の横の広場から。
この日はリフトは動いていなかった

滝本駅から御岳神社へ向かう参道へ
 歩きだすと最初は多少のアップダウンはあるが、ほぼ平坦な道で歩きやすかった。ここでも昨年の暮れにはクマが出没したとのことだ。
 近くには「冬鳥3選」の看板があり、ルリビタキ、シロハラ、ウソが紹介されていた。双眼鏡を構えてみたが、この日は姿を見せてくれなかった。冬の鳥たちは気まぐれなのかもしれない。
 日当たりの良い斜面では、なんとスミレが咲いていた。真冬に見るスミレには少し驚きつつも、どこか嬉しい。冬枯れの景色の中に、小さな春の気配を感じた。

御岳山、御嶽神社への参道の入り口
昨年は各地でクマが出没したが、ここにも出没した。
クマも冬眠できないのかも
冬鳥3選の看板。季節ごとに看板を取り換えるのだろう
ナンキンハゼの枯葉と実
スミレがもう咲いていた。日当たりの良い斜面
御岳山の鳥観図

神代ケヤキと急斜面
 参道脇には、天然記念物の神代ケヤキが立っている。樹齢は千年ほどと推定されている。幹には大きなコブがいくつも盛り上がり、まるで長い年月の記憶が刻まれているようだ。それにしても、よくこんな急斜面で育ったものだ。根は岩の間にしっかりと張り、どっしりと立っているけれども隣の店も崖の縁に建っていて、「大雨や地震の時に地盤は大丈夫なのか」と思わず心配になるほどである。しかし、千年も存在しているので大丈夫であろう。

天然記念物のケヤキ(神代ケヤキ)の石柱と解説板。
千年くらいは生きているようだ
すごいコブだ
よくこんな急斜面で成長したものだ。
上部の家も崖崩れが心配だが、
千年も生きている

武蔵御嶽神社

御岳山の案内図

 石段を登ると、武蔵御嶽神社の門が現れる。門の両脇には畠山重忠と日本武尊の像が鎮座している。冬の冷気の中で、二体の像は静かに昔から参拝者を見守っているのだろう。日本武尊が白狼に導かれたという神話が「おいぬ様」信仰の由来である。境内にはオオカミの狛犬が立ち、凛々しい姿で参拝者を迎えてくれる。犬を神格化したような、山の守り神の雰囲気をかもしだしている。

御嶽神社への入り口の階段
武蔵御岳神社入り口の石柱
御嶽神社入口の扁額(へんがく)
神社入り口の門にある鎌倉時代初期の武将
「畠山重忠(はたけやま しげただ)」の像
もう一つの像、日本武尊(やまとたけるのみこと)、第12代景行天皇の皇子、東国征伐の際、白狼に導かれて道を切り開いたという神話があり、これが御嶽神社の「おいぬ様」信仰の由来
境内の案内図
畠山重忠、武蔵国出身の武将で、鎌倉時代初期の武将。
源頼朝に仕え、武蔵国の名将
宝物殿
幣殿・拝殿・本殿への階段
本殿前の狛犬
狛犬
狛犬
狛犬

本殿前にて
 本殿前で手を合わせ、今年の無事を祈る。おみくじでは、私の前に買っていた家族の中の一番小さい子(5〜6才)が大凶で、家族で大騒ぎしていたので、急に気が引けてしまった。
 昨年は私は快調だったので、引くのを避けてしまった。 本殿からは関東平野が広がり、曇り空でも十分に美しい。裏手からは奥の院(御岳山頂)が見え、冬の山らしい静けさが漂っていた。

本殿からの景色
本殿からの景色
本殿からの景色
本殿裏からみた奥の院(御岳山頂上)
もみじの枯葉

境内の諸社をめぐる
 境内には「おいぬ様」の石像、大口真神社、太占祭場、皇御孫命社、東照社などが点在している。それぞれの社の前に立つと、空気が少し変わるように感じる。冬の神社は参拝者も少なく、静けさが一層際立つ。令和天皇即位記念のヤマザクラの植樹もあり、時代の流れを感じさせた。

オオカミの石像(おいぬ様)
正面が太占祭場で、右側の建物は皇御孫命社
太占祭場の説明版
皇御孫命社の説明板
今の令和天皇が即位したときの記念植樹
(ヤマザクラとのこと)
二柱社

長尾平へ、そして長谷川恒夫の碑
 参拝を終え、長尾平へ向かう。途中には登山家・長谷川恒夫の顕彰碑がある。石と岩を組み合わせた力強いデザインで、彼の言葉「登攀の前に心の葛藤がある…」が刻まれている。
 長尾平には少し雪が残り、冬の山の静けさが心地よかった。遠くの山並みは白く霞み、季節の移ろいを感じさせる。

長谷川恒夫の説明板
長谷川恒夫の石碑
長尾平 少し雪が残っている

大展望休憩所で温かいソバ
 参道に戻り、展望の良い大展望休憩所の「駒鳥売店」へ。ここでビールを飲みながら温かいソバをすすり、体を温める。外はおそらく氷点下。店内の暖かさが、まるで温泉のようにありがたかった。窓の外には冬の山の景色が広がっている。寒さの中で食べる温かいソバは、格別の味だった。

この大展望台休憩所でソバを食べ暖まってから下山した

下山
 広場に戻ると、雲が切れて少し青空がのぞいた。ケーブルカーで滝本駅へ下る途中、植林地や雪の残る斜面がよく見え、冬の山らしい景色を楽しめた。

再び広場にて。晴れてきた。でも寒い
帰りのケーブルカーの中から 遠方がきれい
帰りのケーブルカーの中から。
植林地にそそぐ日差しが厳しく感じられる
ケーブルカーを降り、滝本駅の近くの
バス亭から

そして帰路
 滝本駅近くのバス停から御嶽駅へ戻り、今年最初の山旅は無事終了。寒さは厳しかったが、心は不思議と温かかった。冬の山は静かで、厳しく、そして優しい。その静けさの中で迎えた初詣は、今年一年の良い始まりとなった。


つづく

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