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【森林紀行No.1 1/18】「インディオの神秘な世界」

森林紀行

ここはアマゾン川の源流域。コカという小さな町の近くの森の中の湖である。湖の畔で、ターザンのように「アッアーアー」とか「ヤッホー」とか大きな声を出した。あたりは熱帯降雨林。高さが30mほどもある樹木が林立し、森閑としている。私の叫び声が静寂を破り、湖畔にこだまする。

アマゾン川源流域.jpg

アマゾン川源流域

昨日、我々の道案内をしてくれたインディオはどこから現れるのだろうか?すぐには誰も現れない。彼は約束を忘れたのではないか?あるいはまだ起きてないのか?さらに大きな声を出す。

すると湖の対岸に何やら動くものが現れた。対岸まで300m以上はあるだろう。何だろうか?良く見るとカヌーのようだ。双眼鏡で眺めると昨日のインディオが一人小さなカヌーに乗り、櫂を漕ぎながらこちらに向かってくる。「何事だ、これは?こんなことがあり得るのだろうか?」

森閑とした森の湖畔ではかなり先でも我々の声は聞こえるのであろう。あるいはそのインディオが我々とは違った超聴力を持っているのであろうか?

湖水は波一つたたず、透明度はなく、濃緑茶色の粘性の強い底なし沼のようにドロンとしている。不気味な湖水からは恐竜のような生き物が現れるのではないかと思わされるほどである。そこを静かに櫂を漕ぎ渡って来るインディオ。待つことしばし半時間。

何か不思議な神秘な世界に入ったように私は感じていた。

昨日仕事が終わった後のインディオとの話はこうだった。

「明日も続けて道案内を頼みたいので、明朝迎えに来るがどこに来たらいいのかな?」

その日の仕事が終わり、森の道案内人として雇ったインディオ(先住民)に尋ねると彼は、次のように答えた。

「この湖のほとりに来て、何か声を出してくれ。そうしたらここに現れる。」と言う。

「わかった。明日この湖畔に来たら大声で呼ぼう。そしたらここに来てくれるのだな。」

「そうだ。」

「本当にそれで会えるのだな。」と念を押した。

「心配するな。」

「じゃあ明日7時頃、夜が明けてしばらくしたらここに来るからよろしく頼む。」

「オーケー」

「じゃあ、きょうは、ムーチャス・グラシアス。アスタ・マニャーナ。(どうもありがとう。また明日。)」と言ってその日は分かれた。

インディオは、もちろん時計など持っていないから時間などはだいたいのところだ。家の位置などわかればとも思ったが、特に必要でもなかったし、雇ったのはこの日が初日で、エクアドル森林局のカウンターパート(共同作業の技術者)達もいたこともあり、詳しく聞かなくとも信頼できる雰囲気があった。

彼とは森の入り口付近でたまたま出会い、その森に詳しいということだったので、道案内を臨時に頼んだのだった。彼は、釣りのビクから針金を外したような網状に編んだよれよれの物入れを肩からかけ、汚れて破れかけたTシャツを着ている。彼のすぐ後ろにはとてもついて歩くことができない。というのは強烈な匂いを発しているからだった。風呂など入ったことがないのだろう。風向きにもよるが10m以上離れていても匂ってくる。少し間を置き、数m離れて歩いているのだが、それでも鼻がひん曲がりそうだった。しかし、森に詳しかったので、翌日も道案内を頼むことにしたのだった。我々は、車で鶏小屋のように汚いホテルに戻り、翌日の早朝7時頃、昨日と同じ湖畔に来たのだった。

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多雨そのものの熱帯雨林                森林調査

 

つづく

略歴

増井 博明 (ますい ひろあき) 神奈川県生まれ

(株)ゼンシン 技術調査室長

技術士(森林部門)、林業技士(森林土木)

信州大学 農学部森林工学科卒

 

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