伐採
チェンソーマン
しばらくして2班とも良いチェンソーマンが見つかった。石油開発のため伐採をしていたので、大きなチェンソーを扱って、木を伐るのがうまかった。これでまた仕事がはかどるようになった。
私の班のチェンソーマンはパスクワルといい、先住民である。
大木を伐るパスクワル(大木になると板根が発達する)
同じ木を反対側から撮影
もう一方の班のチェンソーマン。見守るのはモリーナ
伐採した木を測る
伐倒したらまず2mおきに印をつけ、樹高を測り、2m毎に直径を測る。
樹高を測るルナ
直径を測るメディナ
当初、木の年輪は見えないだろうと思っていたが、年輪が見える木が多かった。年がら年中雨が多く、いつも暑いので、偽年輪が多いと思われた。それでも雨期と呼ばれるほど雨が多いのは4月~6月で、それらの月は300mm~400mm以上降り、その他の月でも200mm程度は降るのである。それでも月雨量に150mm~200mmもの差があるので、4月~6月に最も成長すると推定し、年輪幅を測り、成長速度を予測することとした。
いくつもの年輪、疑年輪がわかる
年輪を測る
板根を伐る
木の直径が1m以上、樹高が30m~50mもある木を切り倒すと、伐るのに半日くらいかかってしまう。それは大木には板根が発達しているからで、沢山の板根を持っている木が多く、それを一つ一つ伐っていって、ようやく幹にたどりつくのである。
板根が発達する理由は、熱帯は雨が多く暑いので、落ち葉など養分になるものがすぐに分解してしまい、またすぐに流されるので、土壌の表面にしか養分が蓄積しないため、表層の養分を吸収するためである。暑いので植物体の生産も早いが、分解されたり流されたりして養分が土壌に蓄積しないのだ。つまり土壌中の養分の蓄積の少なさを早い養分の供給(木の葉が沢山落ちすぐ分解する)、早い回転で補っているので木の成長が速く見えるのだ。
そのためその養分を求めて木の根は、表面を浅く横に這い地中深く下に入らない。そのため木が大きくなるとその巨体を支えるために板根が発達するのだ。
板根を一つずつ伐っていって木を倒す
背景の木は板根の幅だけで10m以上もある大木
木の根に跳ね飛ばされる。
ある時、MAGに帰ってからの打合せの時に、Y君が木の根に跳ね飛ばされたと言った。危ないから伐っている木のそばに近づくなと口酸っぱく言っていたのだが、近くで見ていたのだ。倒れるときに根が跳ねあがり、自分も飛ばされたとのことだった。幸い何の怪我もなくよかったが。
また、私とI君がリックサックを木から4~5m離れていたところに置いていたことがあり、やはり木が倒れる瞬間に根が跳ねあがり、リックが10mも飛ばされたことがあった。幸い壊れたものは何もなかったが、もっと気を付けなければならなかった。その後はより注意深くなった。
雨、雨、雨
本当に雨が多かった。
先にも書いたが、ここは本当に雨が多かった。ラゴ・アグリオの年平均降雨量は3,500mm、コカは2,900mmもあり、東京のほぼ倍である。降雨日は年200日を超える。実際に調査の時は毎日午後になると雨が降った。
林内で雨に打たれるルナと増井
晴れると直射日光の下では猛烈に暑く、林内では蒸し暑い。しかし、雨に打たれると冷える。気温は16度くらいまで落ちることがある。帰ってびしょ濡れのままホテルのシャワーを浴びるのだが、よけいに冷えた。コカのホテルの水はアマゾン川の水をポンプ車で運んで来て、そのまま屋根の上のタンクに溜めたものだから、茶色く、雨の方が清潔なくらいだったが、汗混じりの雨は落としたかったのだ。
マチェーテ(南米のナタ)を持つ作業員らと共に
森の人パスクワル
パスクワルは強かった。重いチェンソーをかついてドンドン林内に入って行き、歩くのも早い。よくこんなに力があるものだと思うくらいに力がある。
あるとき緑色のヘビが木にからみついていて、インドネシアで見た猛毒のグリーンスネークとそっくりだった。パスクワルはその蛇を見つけると、マチェーテで頭を切った。他にも猛毒そうな小さい蛇は沢山いた。
パスクワルが切ったヘビ
また林内には毒蜘蛛タランチュラやさそり(エスコルピオン)も多く、あまり気分の良いものではなかった。
パスクワルに「林内にいるヘビやタランチュラ、さそりは気にならないか?怖くないか?」と聞いてみた。すると彼は「何が怖いんだ。危ないんだ?危ないことなど一つも無いさ。どんな生き物だって、俺の方が先に気が付くから全く問題ないさ。ヘビはマチェーテでイチコロだし、タランチュラやさそりなんてにぶいから簡単に踏みつぶせる。」とのことだった。
パスクワルもかなわなかったもの
しかし、パスクワルも蜂にはかなわなかった。大きな木を切り倒すと、木の上の方には蜂の巣がよくあった。倒すと黒い蜂、日本の地バチのようなハチが一斉に襲ってくるのだった。「逃げろ。」と全員が一目散に逃げる。するといつも逃げ遅れるのが木の真下にいるパスクワルだった。運悪く逃げ遅れると沢山のハチが毛髪の中に入ってしまい、大量にさされるのであった。全員ヘルメットをかぶっていたが、ヘルメットの脇から入ってしまうのだ。幸い私は遠くでみており、逃げ足も速く、刺されたことがなかったが、パスクワルは時々刺され、刺された翌日は調子が悪いと言っていたこともあった。
森の人パスクワル