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森林紀行No.4 パラグアイ – 北東部編】No.10

森林紀行

森林調査方法の決定

軽飛行機でフライトサーベイ

 翌12月10日(水)は、前日よりさらに暑く、また前日の晩、ホテルの部屋のクーラーが壊れ、クーラーが入らず、朝から熱中症気味だった。

 しかし、この日は軽飛行機で、調査対象地の上空を3時間も飛んだ。いろいろな発見ができ、面白かった。しかし、森林の伐採は予想以上に激しく、原生林の存在は本当に貴重なものになっているのが良く分かった。

 

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軽飛行機で偵察飛行。

 

大変な伐採量

 どこでも牧場が入り込み、木を伐り出すための道路を勝手に作る。全く伐採量と言ったら凄いものである。国道5号線を20m3ほども大量に丸太を積んだトラックが1時間に20台くらい通る。朝から晩まで通っているが単純に考えて、約半日トラックが通ったとしても1日5,000m3もの木材が伐り出されていることになる。伐採木は優良木で太い木しか伐っていないし、優良木は平均して1haに50m3程度しかないから1日に100haもの森林から抜き伐られていることになる。1年で3万ha近くもの森林が伐採される。これでは100万haの森林があっても30年で無くなってしまう。実際は、そんなことはないだろうと思ったが、3年後の調査終了時に森林管理のガイドラインが完成した頃には、本当に役だてられるか不安に感じたものである。実際には、それよりもっと早いスピードで森林は無くなってしまったのだ。

 

山が静かだったという印象

 日本の山だと鳥の鳴き声をかなり聞いたり、夏であればセミの声に、耳も痛くなるくらいにうるさいところがあるのに、パラグアイでは飛んでいる鷹類は見たが、鳥の声はあまり聞かず、セミの声もほとんど聞かなかった。何か、森林全体が静かだったとの印象がある。

 

動物

 森の中で調査をしていると、人間の声などがうるさいので、動物は逃げてしまう。ピューマやバクがいるということだったが、それらは見なかった。作業員らの話では、ピューマに襲われ、亡くなった人もいるとのことだった。ピューマはペドロ・ファン・カバジェーロに来る前に途中で調べた森林近くに住む人が頭蓋骨を小屋に飾っていたことは既に述べた。アルマジロは良く見た。みつけると作業員がすぐにオノで叩いて捕まえた。家に持って行き食べるとのことだった。

 

アスンシオンに戻る

 予備調査ではその後、アスンシオンに一旦戻り、パラグアイの林野庁の長官などに森林の伐採状況のひどさや調査の状況を報告し、危機感をあおったが、あまり感じていないようであった。

 

調査方法を打ち合わせる

 アスンシオンで森林調査方法の打合せをしたが、この当時、林業分野での日本の国際的技術協力も始まったばかりで、南米の森林状況の情報も少なく、調査方法も手探りな状況であった。そのため森林開発計画のガイドラインを作るといっても、我々の得意な分野、それは航空写真を判読しての土地利用図や林相図(樹種、樹冠測樹密度、樹冠の大小、樹高などにより示される森林の様相)などを作り、森林調査を行って資源量がどれくらいあるかを明らかにするまでは、それほど難しくなかった。

 その後、森林調査以外に、土壌調査や林産業調査などの社会関係調査などを行うか行わないか、また行う場合にはどのように行うかは、調査を開始したものの、その方法はまだ検討中だった。

 そこでは土壌状況がわからなければ植林樹種もきまらないと、当然ながら次の調査から土壌調査を行うことになった。また、社会関係調査も当然行うべきとなり、後の調査では、林産業調査や関係者や住民へのアンケート調査などを行った。

  そして疲れた体にアスンシオンで活力を入れ、体制を立て直し、もう一度ペドロ・ファン・カバジェーロに向かい、森林予備調査の続きを行い、正月前にアスンシオンに再度戻ったのであった。

 

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プロットに到達するため小川を渡る

 

元日

 1981年の元日、調査で疲れた体で、人気のない、アスンシオンの町をぶらぶらと散歩した。軍隊の基地の前を通った時は、番兵が銃を持ち、正面を警護しており、こちらを怪しいものを見るような目で見ている。ここはやばそうだとそっと避けるようにして回り道をした。その後森林局での打合せや報告を行い、1月6日(火)にアスンシオンを発ち、1月8日(木)に日本に一旦、帰国した。

 

帰国後の森林調査方法の検討

 帰国後、予備調査の結果を分析した。森林の状況が分かったので、それに基づいて森林調査方法を決めた。まず、航空写真の判読基準を決めて、土地利用の区分と森林の区分を作った。森林資源に関してはどこにどのようなタイプの森林があり、各タイプにはどのような樹種があり、どれだけの資源量があるかを推定することにした。林相図に対応する森林調査簿も作成するのである。

 森林というのは広大で、一本一本全ての木について調べられるわけではないので、一部を調べて全体を推定する統計的な手法を用いた。層化無作為抽出法というものを用いたのである。

 

 ごく簡単に言葉で説明すると次のような方法である。これは航空写真を判読して似たような森林にグループ化し、そのグループの面積割合により、サンプルであるプロット(標本地)を選び、その標本の中にある木を全て調べるという方法である。層とはグループのことで、グループ内の偏差(かたより)を少なくする、つまりできるだけ均一(同じ様)なグループになるようにグループ化し、グループ間の偏差を大きくするのである。つまり層間の偏差を大きくし、できるだけ異なったグループに分けることができれば、より少ない標本で、全体が推定できるのである。層内分散を小さくし、層間分散を大きくするということである。

  プロットは地図上にメッシュ(縦横の網目)を描き、行(横方向)と列(縦方向)に番号をつけ、ランダムに必要数を選定した。

 

森林調査方法の決定

 プロットの大きさは500m×20mとし、その中を50m×20mの小さな10の部分(小プロット)に分けて調べることとした。統計的手法で精度と誤差率を推定し、総数で約90点を調査する設計となった。

 調査グループは3班に分けることとした。

 1班は、偵察部隊で航空写真や地図上に落とした標本までアプローチする道があるか調べ、無い場合にはどこを起点にしてその標本の始点まで行きつくか、所有者への許可取りなどを担当することとした。プロットを調べる場合、その場所が、国の所有になっている場合には森林に入るのに、問題はないのだが、森林の前に牧場が広がっていて所有者がいたり、所有者でなくとも近隣に住民が住んでいる場合には、それらの人の同意を得る必要があった。

 第2班は、伐開班で、標本設定グループである。アプローチ起点から標本の始点までと標本内の500mの中心のラインを伐開して、次の測樹班が歩けるようにする。標本は50mおきに杭を打ち、杭には赤の標識テープを付け、分かるようにする。また、その中心ラインから左右に10m離れたところには25m置きに杭を打ち、同様に赤の標識テープを付け、プロットの境界がどこかわかるようにプロットを設定することとした。

  第3班は測樹班である。パラグアイの森林局で樹種判定ができるものを配置し、樹種名を判定し、樹高と枝下高はブルーメライスという測高器を用い、胸高直径は直径巻尺、枝下高の直径はペンタプリズマを用いて測ることとした。

 

測樹.jpg

測樹

 

 

 

つづく

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