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【森林紀行No.6 セネガル,マングローブ林調査編】 No.5

森林紀行

アヴィセニアの植林試験地を捜す

リゾフォーラとアヴィセニア

 今回は,アヴィセニアの試験地を最初に,捜しにいった時のことを記す。2002年1月26日(土)のことである。この調査地域には6種類のマングローブが天然に生育していたが,その内,主なものは,リゾフォーラ(Rhizophora,和名はヤエヤマヒルギ)とアヴィセニア(Avicennia,和名はヒルギダマシ)の2種類だった。この2種類の中でもリゾフォーラが圧倒的に多く生育しており,アヴィセニアにはリゾフォーラの前林という形でわずかに生育している程度であった。樹高もリゾフォーラは,条件が良ければ10m以上にも成長していたが,アヴィセニアは大きくても2m程度であった。

 この樹種の植林は,リゾフォーラについてはこの周辺のNGOが中心となり,村人を参加させ,小規模ながら各地で行っていて,成功している場所もあったが,必ずしも成功しているとはいいがたかった。リゾフォーラの植林は,この後に行うパイロット・プロジェクトで実施し,良い方法を確立したが,それは後に記す。一方,アヴィセニアの植林は,実績もなく,植林は難しいと思われていた。

 

 

塩分濃度が高いサルーム・デルタ

 サルーム・デルタには淡水の流入がなく,上流域での塩分濃度は海水よりかなり高く,カオラックの周辺では塩田もあるくらいだった。この話についても別に記す。アヴィセニアは,リゾフォーラの生育地よりも塩分濃度が高い場所でも生育が可能と言われているため,マングローブ林を植林により拡大するために,まずアヴィセニアの試験植林を行って,その植林技術を確立することとした。

 

 

参考文献やマングローブの先生

 そのために最初は,植林地の選定に走り回った。マングローブの植林については,参考文献が少なかったが,当時出版されていた琉大の教授と林野庁の専門家が書かれた「マングローブ植林のための基礎知識」と岩波新書の「緑の冒険」が非常に役立った。これらの本はセネガルに行く前に繰り返し読み,ほとんど頭に入れ込こんでしまった。

 この調査が始まってから,帰国した際には,実際この先生には,直接教えを請い,何回か琉大に通い,これまた非常に役立ち,いろいろなヒントをいただき,実際に現場で試すことができた。また,林野庁の専門家の方は,我々の調査時期と同時期にセネガルの森林局に専門家として派遣されたので,アドヴァイスをもらい一緒に働いた時もあり,これまた非常に役立った。

 

 

実際の試験は委託

 とはいえ,実際に植林試験をする私としては,マングローブの植林の経験は,それまでになかったので,どのような場所が適地なのか,現場を良く観察し,適地を選定することからして,難しかった。それでもアヴィセニアが生育している場所を観察しているうちにどのような場所が良いのか,段々とはっきりしてくるのだった。

 結論として場所は,調査地域の東と西と二つを選び設置し,実際の試験の実施は,西側はUICN (Union Mondiale pour la Nature)のセネガル支部と東側はWAAME (West African Association for Marine Environment)というNGOに委託したのである。委託するにしても仕様書には計画の詳細を記載するので,私はマングローブ植林の条件から試験方法まで全てを理解していなければならなく,実際全てを理解できたと思う。

 

 

営林署を訪ねる

 最初に,森林局やUICNの情報からソモンという場所を調査した。ソモンはプティット・コート(小さな海岸)にあり,ダカールに近く,サルーム・デルタまでは,かなりの距離があったが,海岸の土地は未利用な静かな入り江で,天然のアヴィセニアも沢山生育していた。最初にここの営林署の所長を訪ね,署長に同行を頼んだ。

 

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場所はソモーヌと書いてある場所である

 

 

 営林署の場所は,ンゲコといった。ここの署長は,若く,最近こちらに赴任したばかりで,この地域にはまだ詳しくなかったが,我々だけで調査するわけにはいかないので,ここの署長に同行を頼んだところ署長と助手の二人が同行してくれた。また,森林局本局からの職員も同行していた。

 

 

植林適地を探しに

 ソモンの海岸線にあるホテル「バオバブ」から歩いて行った。ここはソモン川の河口で,入江のようになっており,大西洋の波が直接届くわけではなく,また,水深は浅いので波は非常に静かである。

 

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ホテル「バオバブ」から歩いてソモンの入り江へ

ホテルの前のリゾフォーラの樹高は4mくらい。幅も6?7mである

 

 

 まずは,4mくらいの高さのリゾフォーラが目につく。海岸線はほとんどがリゾフォーラである。ホテル「バオバブ」あたりのリゾフォーラの幅は,せいぜい6?7mで狭いが,入り江に入ってくるとかなりの広がりが見える。

 

かなりの広がりも見える.jpg

かなりの広がりも見えるリゾフォーラ,潮が引いたところには,

ところどころに小さなリゾフォーラが見える

 

 

少し成長したリゾフォーラ.jpg

少し成長したリゾフォーラ

 

 

 川沿いから少し陸側にいくと,土は白くなっており,これは「タン」という土地で,塩分が集積していて,ほとんど植生は侵入できないが,それでもところどころにタマリックスという木(塩分のあるところに生える指標植物)が沢山生えている場所もある。住民はこれを薪として利用している。ところどころにアヴィセニアも見えてくる。

 

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タン地帯とマングローブの境を歩く牛

 

 

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タンの塩分にも耐えて生育するタマリックス。

住民はタマリックスを薪に,マングローブを家の建築材として利用

 

 

 アヴィセニアがところどころに散見されるようになる。花を咲かせているものもある。花は,この時期1月から咲き始め,5月から6月に種子ができ始めるとのことだった。するとそのころ種子を採取して植林試験を始めるとしてその前に適地を決める必要があった。アヴィセニアは普通2?3m程度の樹高だったが,川沿いや内陸部にはときどき,5?6mほどの大きなものも見られた。アヴィセニアだけでなく,リゾフォーラも多くの花をつけるので,これでハチミツ生産をしている場所もあり,パイロット・プロジェクトでも住民の生活向上の一環で,ハチミツ生産を取り入れることとなった。

 

タンに生育するアヴィセニア.jpg

タンに生育するアヴィセニア

 

 

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アヴィセニアの花。リゾフォーラもアヴィセニアも多数の花を咲かせる。

 

 

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ところどころにある大きなアヴィセニア。樹高約6m

 

 

 ここの川幅は広い所では200mくらいあるが,遠浅で浅い。川ではティラピアと思われる魚が取れた。

 

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ソモンで取れたティラピア

 

 

あいまいな土地の境界

 こうしてみると,土地の所有に関しては,日本のように厳密ではなく,まだ土地所有者がいなくて,土地所有者がいない土地は国のものといった風であった。フランス語では,テロワール(terroir:領土)と言った言葉があり,セネガルでもテロワールという言葉が使われており,同行を頼んだ署長にテロワールの意味を聞いてみた。

 その時の答では,テロワールとは,例えば村の土地は村のテロワールと言うことだった。一つの村ごとに村の中に畑があり、使用していればその土地は,その村人達のものである。村の境は,行政界とは矛盾しないが,地図には記入されていない。けれども村人達は,その境界を知っているとのことである。だから,テロワールも村も境界は存在しないということである。我々のようなプロジェクトを行う場合は,3つくらいの村が一緒になり、大きなテロワールを作る場合もあるということである。テロワールは行政単位でもなく,単に自分達の所有地と言った意味であることが分った。

 

 

コミュノテー・ルーラル

 それやこれや,いろいろ文献をあさり,聴き込みをし,段々と土地所有の関係も分かってくる。1997年以来,地方分権化が進み,森林に関しては、国が管理するのは国有林のみとなり、その他はコミュノテー・ルーラルが管理する建前であるが,まだそこまで進んでおらず,実態としては,今は,森林局との共同管理とのことである。

 将来はコミュノテー・ルーラルの単一管理となるだろうが、コミュノテー・ルーラルは力がないので森林局との共同管理が続くであろうとのことだった。コミュノテー・ルーラルは村落共同体という意味であり,村落共同体は,いくつかの村が集まった共同体で,その長が郡長というものである。言ってみれば,日本の郡にあたるもので,日本では群は住居表示の区画だけであるが,セネガルでは郡が,行政機関となっていて,そこに長がいて,それが郡長というものだった。

 最初は訳が分からないものだらけだったが,調査する内に,だんだんといろいろと分かってくるのだった。

 

 

ソモンを試験地に選ぶ

 ソモン以外にも多くの海岸を調査したが,調査対象地の東側では,最初にみたこの海岸線が使いやすく,最終的にはこの地域をアヴィセニアの試験地にしたのであった。特に海岸線であり,未利用の土地で,所有者もおらず,利用できて良かった。なにしろ,うるさいことをいわれずに,自由に試験地を選べたことは良かった。試験結果はうまくいったが,それについては改めて記すこととする。

 

 

 

つづく

 

 

 

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