森林紀行travel

【森林紀行No.7 アラカルト編】 No.10_ホンジュラス

森林紀行

ホンジュラスのマツ林,雲霧林,住民

 ホンジュラスでは1995年から1996年にかけてテウパセンティという地域にあるマツ林を中心に調査をし,森林管理計画を作成していた。首都はテグシガルパ。原住民の言葉で「銀山」を意味するそうだ。空港が狭く谷間を縫いUターンしてから着陸する時は緊張する。去年(2018)5月にも着陸に失敗する事故があった。最近では,治安が悪く,世界最悪の国の一つとのこと。そのためアメリカを目指し徒歩で北上する移民キャラバンが後を絶たないとのことだが,アメリカも移民阻止をしているので、現状の混乱はいかほどであろうか?

 当時も治安は悪く、どのレストランの前でも機関銃を持ったガードマンが立っており,間違って発砲されたら命にかかわると冷や冷やものだった。レストラン内でのウエイトレスは,注文取りに来ても何を聞くわけでもなく,ただつっ立ったまま不愛想だった。それが1998年ハリケーンミッチーに襲われ甚大な被害を蒙り,多くの国の援助が入り焼け太りし,建物も近代化し,2001年に訪問した時には,レストランではウエイトレスがくると,ニコニコ顔で今日のメニューはこれこれです,何を召し上がりますか?と先に説明するなどアメリカナイズされ,その変化に驚いた。教育訓練の成果である。

 

 それはさておき,調査はテグシガルパから約90km東のダンリという町を基地にして行った。ここはニカラグアとの国境に近く,その付近には1980年代のニカラグアの内戦で埋められた地雷が多数あり,危険だった。そのため地雷取りのアメリカ軍の軍人達が,小さいが同じホテルに宿泊しており,治安面ではむしろ安全だった。

 森林は,多くがマツの天然林だった。マツの種類は,オオカルパという種である。林内放牧をするためにほとんどの林地で火入れをし,その後更新(新しい木が生えてくる)するのが,ほとんどマツでその他わずかのカシ類のみのため,マツ林が人工林のように見える。森林の樹高は10m?30m程度である。火入れの影響を受けていない尾根では,たまに樹高が50m,胸高直径が1m程度の立派なマツを発見する場合もあった。人工林と同様なので,日本のスギ,ヒノキの人工林管理手法がよくあてはまった。

 

天然林といっても.jpg

天然林といっても人工林のようなマツ林

 

 

 また,マツ以外で驚いたのは雲霧林の広葉樹である。雲霧林というのは,絶えず雲や霧のかかる場所に発達する森林で,主に常緑樹から成り,湿度が高く冷涼なため,林木の上部までコケ類が密生し下垂していることが多い。日本でも高標高地で常時霧がかかるような森林や屋久島の1,000m付近のスギと広葉樹の混交林地域にも雲霧林がある。ここでは標高1,400m程の尾根上に雲霧林が残っていた。上層木の樹高は,50mを超え,胸高直径は1m近い木が林立していた。それまでもスマトラ島やアマゾン川源流域で巨大な熱帯降雨林を見て来たが,ホンジュラスの雲霧林はそれらに匹敵する巨大な森林だと思った。実際,木の量は材積として表すのであるが,1haあたり1,000?程度あり,日本の巨大なスギ林でも1,000?を超えるのはまれなので,その巨大さががわかる。

 

雲霧林の中の巨木.jpg

雲霧林の中の巨木

 

 

 一方,森林周辺に住む住民達は貧しく,掘っ建て小屋に住み,燃料は薪を山から拾って生活している人達が多かった。本来そういった人達の生活向上に貢献するように例えば,蜂蜜の生産指導や森林に火入れをしないよう放牧地を設けるといった支援をし,その見返りに彼らに森林を保護してもらうといった協力もすべきだったろう。それは住民参加型森林管理と呼ばれているが,この地域に援助に入っていたヨーロッパの国では既にこの頃には行い始めていた。我々,日本は少し遅れたが,その後,その方向にシフトして行き,私も住民参加型森林管理で多くの国に協力するようになっていったのである。

 

森林周辺に住んでいた人々.jpg

森林周辺に住んでいた人々

 

 

 

Page Top